お灸は、古くから日本や中国で受け継がれてきた伝統的な養生法です。近年では、冷え性や肩こりだけでなく、免疫力アップやストレスケアとしても注目を集めています。自宅で気軽にできるセルフケアでありながら、鍼灸院での専門的な治療にも用いられています。
この記事では
について現役の鍼灸師が解説していきます。
お灸の歴史と背景
お灸の起源は2000年以上前の中国に遡ります。日本には奈良時代に伝わり、江戸時代には「養生訓」にも記されるほど広く普及していました。昔は各家庭にお灸が常備され、風邪予防や体調管理に使われていました。現代では科学的研究も進み、血流改善や免疫機能への作用が医学的にも注目されています。
お灸の仕組みと作用

お灸の効果は大きく分けて以下の3つのメカニズムによって発揮されます。
温熱作用
ツボに温熱刺激が加わることで起こる反応を温熱作用と呼び温熱作用は体に様々な反応を引き起こします。
- 血管拡張と血流促進
- 自律神経への作用
- 内臓機能への反射作用
- 痛みの緩和
といった多方面に働きかけるのが特徴です。
経絡刺激作用
東洋医学の考えでは、体には「気(エネルギー)」と「血(栄養素)」が流れる通路があり、それを経絡(けいらく)と呼びます。
経絡上には重要なポイントがある経穴(ツボ)が存在し、ここにお灸で温熱刺激を与えることで、全身の流れやバランスを整える作用が働きます。
免疫調整作用
お灸をすると、ツボへの温熱刺激や経絡刺激を通じて体の免疫機能が高まると考えられています。
これは東洋医学的な「気血の流れを整える」という考えだけでなく、近年では医学的研究からも裏付けが増えてきています。
- 白血球の増加
- 体温上昇による免疫力の増加
- 自律神経を介した免疫調整
- サイトカイン分泌の調整
などの効果も期待できます。
お灸で期待できる効果
1. 冷え性の改善
冷え性は血流不足や自律神経の乱れが原因となることが多いです。お灸で足首やお腹周りを温熱刺激により温めることで、温熱作用によって手足の末端まで血流が届きやすくなり、体全体が温まります。特に女性に多い「手足の冷え」や「下半身の冷え」に効果的です。
2. 肩こり・腰痛の緩和
肩や腰のこりは筋肉の血流不足や緊張が主な要因です。お灸の温熱刺激は筋肉を柔らかくし、老廃物の排出を助けます。鍼治療と組み合わせると、さらに高い効果が期待できます。デスクワークで凝り固まった肩や、慢性的な腰痛に悩む方には特におすすめです。
3. 自律神経のバランス調整
お灸をすることでリラックス時に強くなる副交感神経が優位になり、心身がリラックスしやすくなります。その結果、ストレスの軽減や不眠の改善まど自律神経の乱れによって引き起こされる症状を緩和してくれます。
4. 消化機能の改善
お灸は内臓の機能にも働きかけます。特に胃腸などの消化機能に効果を発揮しやすくなります。
体性内臓反射という反射機能を使い、体に温熱刺激を加えることで胃腸の調子を整えます。
また、便秘や下痢などの症状改善にも有効です。
5. 免疫力アップ
研究によると、お灸の刺激によって血中の白血球が増加し、風邪や感染症の予防に役立つ可能性があると報告されています。体の防御機能を高めたい方には定期的なお灸が推奨されます。季節の変わり目や体調を崩しやすい時期に行うと効果的です。
症状別おすすめツボ
症状に合わせてツボを選ぶと、お灸の効果がさらに高まります。
冷え性

場所:内くるぶしの中心から指4本分上

場所:内くるぶしの最も高い位置が親指1本分下
※三陰交と照海はこちらの記事でも紹介しています。
お灸で代謝アップ!体を温めて痩せやすくするツボ4選
肩こり

場所:手の甲、親指と人差し指の骨が交わるところのくぼみ

場所:首の付け根の骨と肩先の骨(肩峰)を結んだ線の中間
※合谷はこちらの記事でも紹介しています。
肌荒れ・吹き出物に悩む女性におすすめのツボ5選
胃腸不調

場所:膝のお皿の外側縁から指4本分ほど下にある、筋肉が少し凹んでいる場所

場所:おへそとみぞおちを結んだ線上の中間
※足三里はこちらの記事でも紹介しています。
妊娠中の足のむくみを解消する方法は?セルフケアとお勧めのツボ3選
不眠

場所:手首の小指側のくぼみ

場所:かかと中央のへこんだ部分
それぞれのツボは初心者でも比較的探しやすく、市販のお灸で取り入れやすい部位です。
セルフケアにおすすめのお灸
初心者には「せんねん灸」などの台座灸がおすすめです。シール式で簡単に貼れるうえ、温度の強弱や香り付きタイプも選べます。煙が気になる方には「無煙灸」も便利です。最近ではアロマの香りがついたリラックス向けの商品もあり、日常生活に取り入れやすくなっています。
台座灸

台座灸はセルフケアの際にとても便利で安全にできるおススメのお灸です。
温度の強弱も選べ熱く苦痛に感じる場合も簡単に外すことができるので初心者から上級者まで使えるお灸方法です。
お灸は自宅でする場合、煙やもぐさが燃える独特な匂いが発生するので
煙や匂いが気になる方は煙の出ないお灸もありますのでそちらもお勧めです。
アロマきゅう
同じような台座灸の中にもこのような香りを楽しめるお灸もあります。
アロマの香りによりリラックス効果を上げることで自律神経をさらに整えやすくしてくれます。
お灸を行う際の注意点

お灸は比較的安全なセルフケアですが、以下の点には注意が必要です。
- 熱さを我慢せず、心地よい温かさでやめる(低温やけど防止)
- 湿疹や傷口のある場所には使用しない
- 入浴直後や飲酒後は避ける
- 妊娠中や持病のある方は必ず専門家に相談する
最後の項目にもあるように持病によっては危険を伴う場合があります。
また、ポイントとして初めてお灸を行う場合は少し物足りないぐらいから少しずつ場所を増やしたりする方が良いでしょう。
鍼灸には事後効果という効果の感じ方があり、お灸をした直後から身体で反応が起こり、徐々に効果を発揮します。
また、同じ量をしても効果の感じ方に個人差が生まれます。
自分にあった量や強さをみつけましょう。
まとめ

お灸は、冷え性や肩こりの改善だけでなく、免疫力や自律神経の調整にも効果が期待できるセルフケアです。自宅でも手軽に取り入れられる一方、鍼灸院での専門的な施術を受けることでさらに高い効果を実感できます。
血行を促進し、体と心を温めてくれるお灸は、現代人の健康維持や体質改善に役立つ伝統療法です。冷えや肩こり、不眠などに悩んでいる方は、ぜひ日常の習慣に取り入れてみてはいかがでしょうか。
コメント